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映画雑誌「南海」 NANKAI the movie magazine

二人の俳優がいない『エクソシスト3』ディレクターズ・カット版


 昨年、『エクソシスト3』(1990年、ウィリアム・ピーター・ブラッティ監督)のコレクターズ版ブルーレイがリリースされた(米 Shout! Factoryより)。そのなかに、『エクソシスト3』のディレクターズ・カット版が収録されている。これが初公開だったようだ。
 『エクソシスト3』といえば、おばあちゃんが大きなハサミで女の子の首をちょん切ろうとしたり、悪魔と対決する神父の皮膚がメリメリと剥がれるシーンが癖になり、幼いころに何度となくVHSをレンタルして見た。大好きな映画だ。
 物語は、『エクソシスト』の15年後から始まる。ジョージタウンの教会周辺で、猟奇的な連続殺人事件が起こる。キンダーマン刑事(ジョージ・C・スコット)は、その手口が、かつての双子座殺人事件と酷似していることに気づく。しかし、その犯人はすでに死んだはずだった。ある精神病患者(ブラッド・ドゥーリフ)が、自らが双子座殺人事件の犯人だと主張していることを知ったキンダーマン刑事は、その男と面会し驚愕する。男はなんと、階段から落ちて死んだ親友カラス神父(ジェイソン・ミラー)とそっくりだったのだ。そして、その男が部屋から一歩も外に出ないにもかかわらず被害者は増えつづけ、ついにキンダーマン刑事の家族にまで魔の手がのびる……。

 『エクソシスト3』のディレクターズ・カット版は、結論からいえば、驚きの内容だった。
 『The Exorcist III』でなく『Legion』と題されたこのディレクターズ・カット版には、劇場公開版に出演している俳優が、2人、出てこなかった。その2人とは、ジェイソン・ミラーとニコル・ウィリアムソンだ。ジェイソン・ミラーは、物語の核となるカラス神父を演じており、ニコル・ウィリアムソンは、あの迫力のクライマックスにおける主役、モーニング神父である。では、『Legion』にはカラス神父が登場しないのかといえばそうではなく、なんとブラッド・ドゥーリフが演じている。一方、モーニング神父は登場せず、あのクライマックスは存在しなかった。

 ブラッド・ドゥーリフがカラス神父を演じているとなると、双子座殺人犯は、いったい誰が演じているのか。劇場公開版を知っていれば、疑問に思うだろう。それを説明するには、両バージョンにおいて、カラス神父と双子座殺人犯がどのような設定になっているのかを解説しなければならない。複雑だが、こういうことになっている。
 劇場公開版では、双子座殺人犯(ブラッド・ドゥーリフ)の体を、悪魔がとり憑いたカラス神父(ジェイソン・ミラー)の霊がのっとっている。
 『Legion』では、悪魔がとり憑いたカラス神父(ブラッド・ドゥーリフ)が、双子座殺人犯の正体である。つまりブラッド・ドゥーリフがカラス神父であり、双子座殺人犯でもある。
 もしかしたら、別の人が見れば、また別の解釈があるのかもしれないが、一応、このように捉えることはできると思う。
 
 『Legion』の序盤、キンダーマン刑事とダイアー神父(エド・フレンダーズ)がカフェで会話するシーン。カラス神父の話題になり、ブラッド・ドゥーリフが神父たちとにこやかに写っている記念写真が映る。『エクソシスト』でジェイソン・ミラーが演じたカラス神父を、今回はドゥーリフが演じている。そのことを観客に示すカットでもあると思う。しかし、劇場公開版と同じ設定のつもりで見始めたわたしは、この写真がなにを示しているのかわからず、戸惑った。(双子座殺人犯と神父たちが記念写真に収まっているとは、どういうことなんだろう。双子座殺人犯はかつて神父だったという、ディレクターズ・カット版オリジナルの設定なのか……。)
 その後、物語が進んでもジェイソン・ミラーが登場せず不審に思っていると、ドゥーリフと面会中のキンダーマン刑事が、パニック寸前にまで感情を爆発させ、こんな台詞を叫ぶ。
「どうしてもおまえがカラスに見える!」
 ここでようやくわかった。この映画では、ドゥーリフがカラス神父を演じているのだと。
 われながら鈍感だなぁと思う。あるいは劇場公開版を知っていることの弊害なのだろうか。
 これと反対に、劇場公開版では、ドゥーリフが双子座殺人犯であることを観客に示すために、双子座殺人犯の捜査資料として、ドゥーリフの顔写真が示される。

 コレクターズ版には特典として、撮影されながら、最終的には使われなかったシーンが収録されている。そこには、カラス神父が階段を激しく転げ落ちる場面(『エクソシスト』で描かれたシーン。新たに撮影されている)と、その直後が描かれている。手術室で手当てを受けるが、その処置も虚しく絶命するカラス神父。それをキンダーマン刑事が看取る。カラス神父を演じるのは、ブラッド・ドゥーリフだ。
 説明的なシーンで、これを切ったのは正解だったと思う。ただ、『Legion』の冒頭にこのシーンが挿入されていれば、今回カラス神父を演じているのがジェイソン・ミラーでなく、ブラッド・ドゥーリフであるということを、ハッキリと理解できただろう。

 続編において、俳優が交代するということは珍しいことではない。しかし『Legion』においては、そのことが複雑な事態を招いているように思える。
 先述したようにキンダーマン刑事は、自らが双子座殺人犯だと名のる人物が、死んだはずのカラス神父に酷似することに苦悩し、絶叫さえする。その描写に説得力が感じられないのだ。わたしには、『エクソシスト』でジェイソン・ミラーが演じたカラス神父が強く印象に残っている。自称双子座殺人犯がジェイソン・ミラーの顔をしていないかぎり、その男がカラス神父に見えてしまうというキンダーマン刑事に、共感することができない。
 劇場公開版は、この難点に対して適切に処方した結果だと見える。しかしジェイソン・ミラーを出演させられるのであれば、なぜ最初からそうしなかったのだろう。また、ジェイソン・ミラーの出演が叶ったからといって、プロデューサーの悩みがすべて解決したかといえば、そうではなかっただろう。こんどはブラッド・ドゥーリフの処遇が問題になったはずだ。このあたりの疑問については、『謎の映画』(2017年、洋泉社)で岡本敦史さんが答えている(「『エクソシスト3』の真実」)。

 映画において、同じ登場人物を別の俳優が演じるのはとても奇妙なことに思えるし、好奇心を掻き立てられる。
 たとえば『インクレディブル・ハルク』(2008年)でエドワード・ノートンが演じた主人公ブルース・バナーが、その(ユニバース上の)続編『アベンジャーズ』(2012年)でマーク・ラファロに演じられていても、観客は、どちらも同一人物=ブルース・バナーとみなす。マーク・ラファロがエドワード・ノートンと似ても似つかないことは作り手も観客も百も承知だが、マーク・ラファロがブルース・バナーだということは、いわば暗黙の了解だ。ましてや、劇中のほかの登場人物が、ブルース・バナーがほんとうにブルース・バナーであるのかどうか、などと疑うことは、当然ながら、ない。
 しかし『Legion』の場合はどうだろう。ブラッド・ドゥーリフは自らが双子座殺人犯だと名のるが、キンダーマン刑事には、ドゥーリフがカラス神父に見える。「ドゥーリフは何者なのか」が劇中で問題になっているのだ。そして観客には、ドゥーリフがカラス神父に見えない。そうなると、俳優の交代が、たんなる「映画のお約束」で済まなくなってくる。ふつうは「なかったこと」にされ、あえて話題にすることすら避けられるはずの俳優の交代が、観客の意識の前面にせり出してくる。映画の内と外の境界線上で、ざわめきが起こる。『Legion』で起こっているのは、そうした事態ではないだろうか。

 劇場公開版のクライマックスが『Legion』にはない、という大問題については、前掲の論考で岡本敦史さんが詳しく書かれているので、ぜひお読みください。
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  1. 2017/03/26(日) 20:40:31|
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